つのいてんこのヴェネツィア的生活

アートと暮らす

ずいぶんと遅い報告になりましたが、展覧会「ICONA」は昨年2018年11/24無事に終了いたしました。
11/19から６日間という短い会期でしたが、本当に多くの皆さまにご来場いただきました。心より御礼を申し上げます。
本展では展示室を２室に分け、角井功、つのいてんこそれぞれがヴェネツィアからインスピレーションを得て制作した作品を発表しました。
また会場では絵やオブジェとともに、ヴェネツィアの日常を映し出す映像クリップ、収録した環境音や古楽の調べを同時に流し、時空を超えた美と暮らしが混ざり合うヴェネツィアを巡る旅の時間を体感していただきました。

尚、会場での展示は終了いたしましたが、こちらの「ICONA」サイトで継続して作品の発表や活動のお知らせをしていきます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

ヴェネツィアに通い始めて24年という月日が経ちました。共にグラフィック・デザイナー、アートディレクターとして仕事をしてきた私たちは、ヴェネツィアに出会って以来、小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を東京においても実践。それぞれの作品制作も含め、衣食住すべてをアートととらえるライフスタイルを提案しています。
私たちのヴェネツィア物語は2000年に「ヴェネツィア的生活」を著したことで第１章から第２章へと移り、2015年に最愛のヴェネツィアのマンマがこの世を去ったことでひとつの節目を迎えることになりました。今回の展示は次の第３章のページを開くための私たちのブックマークであり、すべて初公開の作品によるプレミアと考えています。これからも制作を続けながら、あらたなかたちでご覧いただけるようにしていきたいと考えています。
その一つとして当初からの計画通り、展覧会を終えた後、作品の一部を生活の場である自宅に展示し、「アートと暮らす」試みを始めています。
我が家に訪れる友人たちはもちろん、いろいろな方々に「アートと生活する、そして生活をアート化する」実験を体験していただきたいと思っています。

アトリエ生活

展覧会に向けて作品制作のため、週日をアトリエのある実家、週末を自宅で過ごすという二拠点生活にも慣れてきました。週日は制作に没頭し、週末はデモと雑用をこなすために自宅に戻っているような感じで、ちょっと世間離れしてきているかもしれません。7月になり今年も半分が過ぎ、だんだん時間が加速して過ぎていくようです。

例によって心配＆貧乏性な私、作品制作以外にも色々な手配の作業が増えつつあり、手に汗握る日々です。
実家の二階を改造してアトリエにしています。ここでは、実家に住む姉と私たち夫婦の３人と出入りする３匹の猫、庭のある暮らしです。基本的には姉が食事を作ってくれるので、賄いつきのアトリエというところ。姉が用事のある時や、イタリア料理の時は私が担当します。実家のある近辺はホームセンターや資材屋が多く、制作のための材料調達にも便利な環境です。11月の展覧会に向けて後半年足らず。アトリエ生活もこれからが本番です。

イコノグラフィアの旅

私の絵のテーマはコツコツと描き続けていた20数年前から一貫してVOX ANGELICA〜天使の声。天からのよい知らせ、聖書でいうところの福音という意味です。絵のモチーフはすべて女性の裸像で、世界を浄化するような福音でありたいと願いながらその姿を描いていますが、まず一番先に癒されているのは私自身なのかもしれません。

私の趣味というかライフワークは、自分が描く絵も含めて図像学〜イコノグラフィアへの興味。鑑賞者としては絵の中の図像の意味を読み解くゲームのような愉しさがあるのですが、一転自分が描く場合は私なりの解釈をしたイコンを埋め込んでいく作業です。女性たちが表すメッセージを幾つかのカテゴリーに分けて、タイトルとエンブレムをつけています。ひとつひとつに向き合いながら心の深いところへ降りていくのは、イコノグラフィアの旅をしているような気分です。

「VOX ANGELICA」のページを更新しました。みなさまページのフォローをお願いいたします。
https://www.facebook.com/arsvoxangelica
VOX ANGELICAは、つのいてんこ（Tenco Tsunoi）の絵画・オブジェ作品を掲示しています。2018年11月の展覧会に向けて製作中の作品を現在進行形でアップしています。展覧会については後日情報ページを開設する予定です。
＊展覧会：2018年11/19〜24＠原宿「表参道画廊」

聖なる色

ビザンチンのイコン装飾美術に触発されてオブジェを制作しています。ベースの板に粘土を貼り付け、貴石やビーズを埋め込み、彩色する作業。石の色は赤系と青系、そしてそれを包みこむのは黄金色。
近視眼的な流れ作業で黙々と手を動かしていると、雑念が取り払われ、対象物に意識が集中し、編みものや刺繍などの手工芸がそうであるように一種の瞑想状態に陥る。心地よい瞑想は中毒性を伴うものらしく、オブジェ作りはあともうひとつもうひとつと、手が止まらなくなる。オブジェを作り続ける１ヶ月半余りの間、自分の中でプリミティブ期から最盛期、そして自己模倣のマニエリスムまでの様式の変化を辿ったことは興味深い体験になった。そうやって日がなアトリエで装飾と文様の世界に没頭していると、技法は全く異なるものの、何世紀もの時空を超えて当時のイコン制作者たちの心情を追体験しているような気持ちになってくる。
文字通りに血肉を表す赤色、理性と純潔を表す青色、全てを包み込み神性を与える黄金色。聖なる色に宿る秘密を皮膚感覚で感じとっている。
ビザンチン美術の制作者は現代的な意味のアーティストではなく、宗教的使命を帯びた職人たちだ。制作は祈りなのだという思いを共有する日々を過ごしている。

MINDFUL HANDS 考える手

2018年はクリエイティブに変化する年。年末に一大決心して、今秋11月夫のイサオくんと一緒に展覧会をすることにしました。そのために生活パターンも変わります。作品を制作するアトリエが実家にあるので、都心の自宅と実家を行ったり来たり。今までは週末に実家で過ごし、週明けに自宅に移動していましたが、今年は週日に実家で制作し、週末に自宅に戻るという逆転です。
年末にアトリエを使いやすいように片付け整理し、正月早々から粘土をこねたり木を削ったりのアトリエ生活が始まりました。アトリエと自宅を行き来する生活は、手を動かす場所と頭を動かす場所を棲み分けている感じ。実家と自宅は電車移動で１時間半あまり。スイッチの切り替えにはいい時間でしょうか。黙々と手を動かしていると頭が働いて、アイデアが湧くことも。手と頭の関係は面白く、先年ヴェネツィアで見たミニアチュールの展示のタイトルが「MINDFUL HANDS」だったことに、改めてその意味の深さを実感しています。
連続した数日を制作に費やすのは、当然ながら仕事の合間を縫ってする切れ切れな作業と違って集中できる。以前、友人と仕事場を作り、撮影美術やインスタレーション、店舗ディスプレイ、舞台美術などのアートワークの仕事していた80年代の頃がしきりに思い出されます。私たちはそれまで出会った西洋美術へのファンキーなオマージュというか、デコラティブなテイストに浸り、毎日おもちゃ箱をひっ繰り返したようなオブジェ作りに没頭していたものです。なんと事務所の名は「FINEART」だったのですから、若くて怖いもの知らずでした。気がつけば今もその頃買い集めた様々な材料がそのまま使えるという事実。つまり、長い時を経ても私の好きなテイストは一貫して変わらず、目下制作している作品もあの時の私の延長線上にあるということなのです。久しぶりに蘇ったMINDFUL HANDSの喜びを感じています。