2010年 10月 17日
VENEXIAN |
ある年の冬の午後、例によってマンマたちのグループ「お若いご婦人方」(ヴェネツィア語でSIGNORE ZOVANE、もちろん冗談)の集まりの後、一番年長のシニョーラを送りがてら、ちょっとお宅にお邪魔してカフェとグラッパをご馳走になった時のこと。マンマを含め全員ヴェネツィア生まれ、平均年齢80才を超える彼女たちのヴェネツィア弁のおしゃべりはあいかわらず強力で、滅多に相手に同調することはないのだけど、ある一点に話題が及んだ時、そうだその通りと突如意見が一致したのです。「生まれてこの方ずっとヴェネツィアだけど、今も毎日美しい発見があるんだよ」と口々に熱を込めて語るのだ。例えばそれはパラッツォが夕陽を受けて黄金色に輝く一瞬。路地から河岸に出るとぱあっとひらけるセレニッシマな空。教会の古壁にひっそりと咲くクレマチス。サンマルコの鐘楼に冴えざえとかかる月。ボートが行き交う運河の水面のきらめき。うっかり迷い込んだ径の先の緑の中庭。朝靄に浮かぶサンミケーレ島---。私自身ヴェネツィアが見せる美しい瞬間にいつも圧倒されているけれど、生粋のヴェネシアンであるシニョーラたちもまた同じように感じているということに今さら驚き、そしてちょっとうろたえるくらい感動してしまった。ヴェネツィアが美しいというのは誰もが認める事実に違いない。だけど老境を迎えたマンマたちが自分の生きる世界と人生に日々感動できるというのは、あたりまえのようで実は凄いことじゃなかろうか。ヴェネツィアだって天国ではない、人々の生活は喜びもあれば苦悩や悲しみもある。けれどもこの世にも美しい場所に生まれ、そしてVENEXIANとして生きていることに誇りを持っているのだ。やはりヴェネツィアはここにしかない特別な磁場のような力を持っているのかもしれない。などと思い巡らす間にも、目の前の窓には泣きたくなるほどのスペッターコロ、刻々と菫色のグラデーションに暮れゆくラグーナの夕景が広がっていた。
*北岸の夕景。
*コッレールの展示室の窓から望む屋根
ヴィットリアのお宅でリキュールを飲みながらお喋り。
by tencovenexiana
| 2010-10-17 14:10
| venezia