2011年 09月 17日
鰯のサオール/EL SAOR |
ヴェネツィア人をつかまえて、「ヴェネツィアの名物料理は?」と尋ねたら、ほぼ100%に近い割合で「そりゃサオールだろ」と答えるに違いありません。「EL SAOR」エル・サオール、一見スペイン語のようなこの料理名はヴェネツィア弁で、イタリア語ならばSAPOREサポーレ、すなわち「味」の意。「味なもの」旨いものの代名詞ということでしょうか。さて、サオールというのは簡単にいえば「甘酢漬け」、干しブドウの甘味とヴィネガーで甘酸っぱく味つけしたマリネ料理のことです。甘酢っぱい料理の起源は古く、ことにヴェネツィア人はこのAGRODOLCEといわれる甘酢味が大好き。古来よりウナギやカレイ等の魚はもちろん、タマネギやラディッキョ、キノコなどなど、何でも甘酢に漬けて保存したことが、古い料理の文献にも記されています。なかでも最も代表的なのはやっぱり鰯のサオール。ヴェネツィア人なら誰でも知っている「EL SAOR」という歌まであるくらい。その歌とは「ヴェネツィア暮らしがしたけりゃ漁師におなり。そうすりゃ毎日旨いサオールが食べられる〜」。(正確には歌詞の中ではこの「毎日」と意訳した部分は15日、quindicigiorni。イタリア人にとって15日というのは皮膚感覚的にとらえられる時間の単位なのです。)毎日食べたいこのサオール、地元の料理店やバーカロといわれる居酒屋では欠かすことのできないヴェネツィア風チケッティ(前菜として供されるワインの酒肴)の定番です。けれどもやっぱり家庭で作るのが一番。それぞれの家庭によって味が異なるのも、領土料理ならではです。
本当は秋刀魚を求めて行ったスーパーの魚売り場でしたが、ちょうどいいくらいの小ぶりの鰯を見つけたので予定変更、久しぶりにサオールを作ることにしました。まず、タマネギを焦がさずに炒めて、そこへ塩胡椒、白ワインヴィネガー、干しブドウ、松の実(この日は松の実を入れ忘れました!)水を加えて軽く煮込みます。ヴェネツィアでも、このマリネの漬け汁に砂糖を入れるかどうかは常に論争のもと。ちなみに私はほんのひとつまみ三温糖を入れます。同時進行で鰯を唐揚げにし、揚げたてをマリネにしていきます。当然ながらこのサオール、作りたてではなく、味が染みてなじんだ方が美味。なので、わざと半分を残して翌日食すのが常です。日本人にとってもなじみ深い南蛮漬けに似た味、冷たい白ワインがぴったりです。
*サオールの後はバジルペーストのスパゲッティーニで爽やかに。
by tencovenexiana
| 2011-09-17 01:09
| 料理/cucina